弁松の弁当の味は、江戸から続く甘辛の濃ゆい味です。
日本人のDNAに刻まれた懐かしい味です。
味覚だけでなく、情緒にも訴える味でありたいと思います。
弁松の味はなぜ濃ゆいのか? これにはいくつか理由があります。
「弁当なのでもともと日持ちさせるために濃くした」
「肉体労働に耐えられるようカロリーを高くするために濃くした」
「砂糖が高価な時代に江戸っ子は見栄を張って沢山入れた」
「江戸っ子は中途半端な味ではなくはっきりとした味を好んだ」
「関東の水質が硬水なので、出汁を取る際には昆布ではなく鰹節や煮干しを使い、
その生臭さを打ち消すために濃口の醤油をたくさん入れたから」
などと言われています。
味を薄めるのは簡単です。しかし、それではせっかくの伝統の味がボケてしまいます。弁松の弁当ではなくなってしまうのです。
よそでは真似できない味ですので、この味を好まれるお客様がお一人でもいらっしゃる限り伝え続けたいと思います。
手間隙かけて作られた弁松自慢のお惣菜には、秘伝の技と、さらにおいしいものをという職人たちの想いが込められています。百人一首にも詠われた逸品「たこの桜煮」、弁松の定番「野菜の甘煮」「しょうがの辛煮」「玉子焼」、そして「豆きんとん」「めかじきの照焼」や「信田巻(しのだまき)」など、昔ながらの変わらぬ味のひとつひとつは、よそでは味わえません。だしの微妙な割合、ガス台ごとの炎のくせ、秒単位のタイミングなど、仕込みから調理まで職人の技が隠されています。
江戸時代の弁当の味ってこんな感じだったのかと、楽しみながらお召し上がりいただけます。
弁松の弁当は小さな経木の折箱に入っています。その中にぎっしり詰まったおかずは全部が主役です。
弁当を食べるとしばし江戸時代にタイムスリップ。きっと誰かに話したくなります。
毎日、職人が手焼きしている玉子焼。一度に三本の鍋を使って焼きます。熟練した職人でも毎日が真剣勝負。
ちょっとした火加減で仕上がりが変わります。
月のように黄色く仕上げ、かめば口の中に出汁がにじみ出て来ます。折箱の中でも
その存在感を主張しています。
弁松の味が濃過ぎるとお感じの方にもこの玉子焼は受け入れられ、全国の方に人気
です。
何はともあれまずは弁松の玉子焼をお試しください。
濃ゆい味にどっぷり浸かれるのが野菜の甘煮です。茶色い見た目はどう見ても味が
染み込んでいます。
筑前煮のような味だと思って食べると裏切られますのでご注意ください。
甘辛の味は贅沢な味です。そして、どこか懐かしく感じる味なのです。最初にこの味に
びっくりしてしまった方の中には、弁松の弁当とは距離を置く方もいます。
しかし、しばらくすると無性に食べたくなってまた戻って来る方が多いです。
あるいは年とともに味覚も変化して行き、気が付いたら濃ゆい味がお口に合うように
なっているなんてこともあるのです。
弁松の折箱は、今では珍しい経木(きょうぎ)の折を使用しています。
経木とは、昔、紙の代わりに杉や檜の板にお経や記録を書き留めたことからそのように
呼ばれ、現在でも折箱の材料を経木と呼びます。
弁松で使っている折箱は、主に北海道のエゾ松が原料です。
折箱もたくさんの手間暇をかけて作られています。経木の折箱も弁松の弁当の一部
なのです。